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王太子に転生しましたが、なぜか悪役令嬢に土下座する羽目になりました
王太子に転生しましたが、なぜか悪役令嬢に土下座する羽目になりました
작가: 奈香乃屋載叶

第1話 悪役令嬢は土下座を知らない

last update 게시일: 2026-01-24 19:00:00

 俺は、人生で初めて土下座をした。

(最短で信頼を取り戻すなら、これしかないと思った)

 形式も、言葉も、全部捨てる。

 ”誠意《せいい》だけを見せる”ーーそのはずだった。

 そして、その謝罪は思うようには進まなかった。

 過去、別の人物への謝罪時、他の手段は上手くいかなかったからだ。

 言葉で謝っただけだと、何か裏があるのではないかと疑われ、贈り物を送ったら、印象操作だと思われてしまった。

 だからこそあの日は、土下座しか手段が残されていないと思っていた。

 そして行った。

(段取りも、時間も、言葉も)

 

 現実は上手くいかなかった。

「いや、違うな。完璧だった”つもり”なだけだ」

 だからこそ、だろう。

 とある”成功例”を、俺は知っていた。

 だがそれは、物語の中の話だった。

 それをあの日、痛感《つうかん》することになった。

 時間を空ければ、その分だけ疑いは強くなる。

 なら、間を置かずに動くべきだ。

 ーーそう判断した。

 馬車がとある屋敷の前で停まった。

 俺はゆっくりと馬車から降りて、玄関へと向かっていく。

 従者はいない。

 ペトリコールの匂いが鼻に入ってくる。

 雨が降らなければいいが。

 扉の前に着いたら、扉を叩いて開くのを待った。

「どちら様でしょうか」

 この家の使用人が出てきた。

 俺の顔を見ても、見当がついていない様子だった。

 使用人は扉を開けた瞬間、わずかに後ずさりして問いかけてきた。

「レオポルドだ」

「え?」

 突然言ったからか、気づいていないようだった。

「シュナイエ王国、王太子だ」

 ”王太子”と言った瞬間、扉の向こうは空気が変化する。

 使用人が息を飲んでいるようだった。

「お、王太子殿下……大変失礼いたしました」

 使用人の謝罪の後に一瞬だけ静寂《せいじゃく》が訪れる。

 そして、使用人は驚きながら俺を見ていた。

「ほ、本日は、その?」

 静寂が破れたのは、使用人の緊張しながらの問いかけだった。

「ユリアナ嬢に会わせてほしい」

 彼女は公爵令嬢《こうしゃくれいじょう》で、この屋敷に住んでいる。

 俺の目的は彼女だった。

(ここで言う。理由も全部)

 そう決めていたはずなのに。

 喉が、ひどく乾いている。

 言葉を思い浮かべるたびに、何かが引っかかる。

 ーー言えば、終わる。

 何が?

 分からない。

 だが、言ってはいけない気がした。

「分かりました、中へ」

 俺は使用人に案内されて、客間へ。

「王太子がお越しになられたって!?」

「紅茶をすぐに用意しなさい!」

 侍女がバタバタと慌てている。

 すぐにカップに淹れられた紅茶が出される。

 湯気が立っていて、香りが鼻に入ってくる。

 だが飲んでいる余裕はない。

 椅子に座りながらユリアナ嬢がやってくるのを待っていた。

(ここで失敗するわけにはいかない)

 時計の針が動く音だけが耳に入ってくる。

 後は俺の深呼吸の音だけ。

(完璧にしないとな)

 タイミングを間違えたら失敗する。

(俺は”正しいこと”をしに来た)

「お待たせしましたわ」

 しばらくして、やってきたのは、ユリアナ・フォン・ルイッツホーフ嬢。

 前に見たときと変わらない姿をしている。

 ドレスを着ていて麗しい。

 ユリアナ嬢は一瞬だけこちらを見て、すぐに視線を逸らした。

「……そのままで結構です」

 距離を詰めようとした瞬間、彼女はわずかに後ろへ下がる。

「近づかないでくださいませ」

 拒絶だった。

 分かっていたはずなのに、その一歩がやけに遠い。

 手を伸ばせば届く距離のはずなのに。

 その一歩が、どうしても埋まらない。

「ユリアナ嬢」

 彼女は、すぐには口を開かなかった。

 一度、呼吸を整えるように間を置く。

「……お話は、伺います」

 そう言ったものの、視線は合わせないままだった。

「殿下、本日はどういった……」

 俺は彼女の言葉を言い終わらないうちに、床に両手と膝をつけて、頭も床につくくらい身体を折る。

 礼服がしわになるが問題ない。

 彼女の顔が見えなくなるが仕方が無い。

「どうも、すみませんでした!」

 俺はユリアナ嬢に謝罪を行った。

 額を床につけながら。

 その瞬間、客間は静寂が襲いかかった。

「え?」

 ユリアナ嬢のドレスの裾《すそ》が僅《わず》かに揺れる音が聞こえるだけ。

「あの、今、何を?」

 表情は見えないものの、使用人は驚いているようだった。

 ユリアナ嬢も一歩遅れて驚いていた。

(早すぎたか?)

 こういうのは先手必勝だと思ったが。

「殿下?」

「突然、どうしたんですの?」

 俺の様子を見ているのだろうか、ユリアナ嬢も使用人も疑問を口にしていた。

「何故そんな事を?」

 やがてユリアナ嬢は口を開いた。

 困惑が混じったような感じで。

「貴方の礼服も床も汚れますわ」

「…………」

 俺はこの状態のままでいた。

 誠意を伝えるために。

「それにここは、王宮ではありませんわ」

 分かっている。

 だからこそだ。

「その姿勢は、どういう意味ですか?」

 俺が行っている姿勢に疑問を持っているようだ。

 だがさっきの言葉を含めて、ユリアナ嬢は察した。

「謝罪、ですか?」

「……そうだ」

 合っている。

 だから俺は肯定の返事をする。

「理由を、お聞きしても?」

 ユリアナ嬢は落ち着きながらも訊いてきた。

 訊きたいのは当然だろう。

 ユリアナ嬢はいつも通りだった。

 背筋を伸ばし、視線も逸らさない。

 ーー完璧だ。

 だからこそ、分かってしまう。

 カップを持つ指先だけが、わずかに震えていた。

(やめろ)

 言葉が喉元まで出かかる。

(それを言ったら)

 震えが、止まらなくなる気がした。

(言えない。言葉にした瞬間、全部崩れる)

 だが俺は言えなかった。

 言葉を探したけれども、見つからなくて失敗する。

「俺の未熟さだ」

 そして出てきたのは、抽象的な言葉だった。

 だがこれ以上、言葉が出てこない。

 しばらく静寂の時間が流れる。

 長時間のように俺は感じられた。

「殿下、顔をお上げください」

 俺は彼女にそう言われて、ユリアナ嬢の表情を見る。

「わたくしは、殿下が何をされたのかを知りません」

 無表情で目を逸られ、返事までに間があった。

 俺は何も言えず、ただユリアナ嬢の言葉を聞いていた。

「それは、”わたくしのため”ではありませんよね?」

 突き刺さるような鋭い言葉。

 ユリアナ嬢は視線を一瞬だけ、床に向ける。

「理由の分からない謝罪は、受け取れません」

 感情を持たずに淡々と俺に伝えた。

 その場では、何も変わらなかった。

「殿下のは”謝罪”ではなく、ただの自己満足です」

 ユリアナ嬢はそう俺に伝える。

「そのような形で謝罪されても、困ります」

 冷たい目は俺を拒絶していた。

「帰りなさい」

 ため息を吐きながら、ただユリアナ嬢はそう言った。

「…………」

 俺は何も言えない。

 謝罪だからこそ、何も言えなかったからだ。

「もう一度謝罪に来るのであれば、はっきりとわたくしに理由をお伝えください」

 ユリアナ嬢はそう言って、俺の前から離れていく。

 俺は立ち上がり、彼女の様子を見ていた。

 背筋は完璧に伸びていたが、指先が何となく震えているようだった。

 でも、そのまま追いかけることもなく、立ち尽くしていただけ。

 離れていくユリアナ嬢は、少し立ち止まるといったためらいはありながらも、振り返ることはなかった。

「紅茶、少々冷めてしまいましたが、飲まれますか?」

 使用人はカップを見たまま答える。

「いや、いい」

 俺は紅茶を飲むこと無く、屋敷を立ち去ることにした。

 馬車に戻るまでの間、額には床の冷たさが残っていた。

 外では雨が降り始めている。

 そしてユリアナ嬢が言っていた通り、礼服は汚れていた。

 謝罪は失敗した。

 あの時と同じだ。

 庭園で、紅茶を飲んでいた日もーー。

 あの時も、気づいていたはずだ。

 震えていたことに。

 それでも、俺は。

 見ないふりをした。

(段取りは決めていたはずなのに)

 どうして俺がこんな事をしてもなお、理由を言えなかったのか。

 何故、あの謝罪は失敗したのか。

 少し前に起きた出来事からだった。

 それでも俺は、すぐには理由を言えなかった。

 言葉にするには、もう一度ーー現実に向き合わなければならない。

(そうか、やり方が足りなかったのか)

 俺は分かった気になっていた。

 ーー今にしてみれば、逃げだったのかもしれない。

 前世の推し《・・》を、現実で傷つけた俺は最低だ。

(間違っているとは、思わなかった)

 俺は、彼女が好きだった。

 だから、壊した。

 一番、取り返しの付かない形で。

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최신 챕터

  • 王太子に転生しましたが、なぜか悪役令嬢に土下座する羽目になりました   エピローグ【最後の土下座の先に】

    「ついにこの日ですわね」「ああ」「来ちゃったか」 あの王室会議から一年後。 王宮にある礼拝堂、そこで俺達の結婚式が行われていた。 出席しているのは陛下《父上》、ペテル、デメルジス宰相、レーナなど数えれば30人もいないであろう。 かなり簡素なものだが、温かさははっきりと感じる。「俺は、これから二人を一生幸せにすると誓います」 白い軍服に身を包みながら、参列者に対して宣言する。 続いて指輪を手にして二人の前へ。「わたくしも、殿下と共に歩むことを誓いますわ」 ユリアナ嬢は純白に近い優美なドレスに身を包んでいる。 そんな彼女の薬指に一つ目の指輪をはめていく。「私も殿下の側にいられることを、幸せに思います」 クレア嬢は柔らかい淡い色のドレスを着こなしていた。 続いて二つ目の指輪を彼女の薬指へ。「レオポルド、誓ったからには、必ず二人を幸せにするように。これからが大変だからな」 父上は静かに頷いて、短い祝福の言葉を述べていった。 会場は拍手に包まれていく。「盛大な式じゃなくても、十分ですわね」 式が終わって、俺達はゆっくりと庭園を歩いていく。 庭園の花々も祝福してくれるようだった。 軍服やドレス姿のままだが。「ええ。私も、こうして三人でいられるだけで、隣に立てるだけでもう十分だと思えます」 俺は二人の手を握って、静かに笑った。「これでいいんだ。完璧じゃなくても、俺達は三人で生きていく」 小さな式ではあったが、その選択はすでに王国中に広まり、誰もがこの結婚を見守っていた。「まだ慣れませんわね、この席」 執務室には俺とユリアナ嬢とクレア嬢の三人で公務をしていた。 ユリアナ嬢が少しだけ愚痴《ぐち》を。「お疲れ様ですわ」 それでも彼女は微笑みながら、作成を手伝っていった。「ありがとう」 感謝を伝えながら、次の書類の作成を。「これは、どう思うんだ?」「そうですわね」 意見を求めると、ユリアナ嬢は彼女の考えを述べていった。 それを聞きながら、公務に活かす。「クレア様、頑張っていますね」 資料を持ってきながら、クレア嬢がにっこりとしていた。 続いて作成が終わった書類を片付けていく。「貴女もね」 ユリアナ嬢が彼女を見つめながら、優しい笑みを。 クレア嬢はいつものように肩を揉んでいく。「丁度良いな」 固まっ

  • 王太子に転生しましたが、なぜか悪役令嬢に土下座する羽目になりました   第29話【二人と婚約させてください】

     翌日の昼下がり。 離れの庭園の見える応接室へ、ユリアナ嬢とクレア嬢を呼んだ。 一昨日の夜とは違って、くっきりと応接室からは庭園の花々が見えていて、見飽きない場所。「レーナ、今日は君が見届けるんだな」 二人がやってくる前、レーナが紅茶を用意していた。 侍女なのもあって淡々としているけれども、色々と考えているようだった。「はい。陛下よりご命令がございましたので」 宰相よりも話しやすいのかもしれない。 変なことも言わなそうだから。「お待たせしましたわ」「殿下、今日はどんな話し合いをするの?」 やがて応接室へ二人がやってきた。 落ち着き払っていて、微笑みのまま部屋の中へ入っていく。 レーナは部屋の端に立って、様子を見守る。「座ってくれ」 ユリアナ嬢とクレア嬢は隣り合うように。 俺は向かい合う形でソファに座って、話し合いが。 ただ、座った瞬間に言葉が交わされず、少しの間沈黙が応接室に流れていく。「婚約の事が片付いたわけなんだが」 それを破るように、俺はゆっくりと口を開いた。 何だろうな、少しドキドキする。「ユリアナ嬢。約一ヶ月前、俺は君の完璧さに耐えきれず、婚約を破棄してしまった」 まず俺はユリアナ嬢に向けて言葉を。「申し訳ないことをしてしまった」 深く頭を下げて、ユリアナ嬢に謝罪する。「恥ずかしいことだが、破棄してから後悔が起こった。しかも、前世の記憶を取り戻す形という、誰にも信じてもらえないような状況で」 二人は口を挟むことなく、静かに耳を傾けていた。「俺はやっと君への愛を感じることが出来た」 少し上を向いて、謝罪のための講習を行った事を思い出す。「君の完璧さに想い、それを受け入れられた」 ユリアナ嬢への気持ちを伝えた後、彼女は口を開く。「わたくしもですわ」 たった一言だけれども、何倍も伝わってく

  • 王太子に転生しましたが、なぜか悪役令嬢に土下座する羽目になりました   第28話【未来への誓い】

    「終わったな」 会議が終わって、王族や貴族達がそれぞれ会議室を後にする。 俺も会議室へ出ると、緊張が解けて安堵感が身体を包んでいく。 大きく息を吐いて、さっきまでの重さを身体から出していった。「二人の婚約者が認められるなんて」「これから大変になるぞ」 廊下で貴族達がひそひそと噂話をしていた。「婚約の問題は解消した。あのお二人ならお似合いだろうな」「そうかもしれない。無事に婚姻まで進めるだろうか」「再び破棄なんて事にならないといいが」 賛同する意見や懐疑的な意見が飛び交っていて、評価は分かれているみたいだ。 当然だろうな。 ユリアナ嬢とクレア嬢を選んだから。 ただ、俺への視線は冷たいものから畏敬の念を覚えたものであった。「これで、やっと始まるな」 俺は少し前に出た二人にそう言葉を告げる。「ええ。これからですわね」 笑みを見せながら、頷くユリアナ嬢。「おめでとうございます、殿下」 軽く拍手をしながら、はにかむクレア嬢。 俺は廃嫡の危機を乗り越えたのであった。「さて、本日は失礼いたしますわ。再びよろしくお願いいたしますわ」「ああ」 ユリアナ嬢は微笑みを見せながら、王宮を後にした。「私、今日の分の残った書類を片付けてきますね」 続いてクレア嬢も、先に執務室へと向かっていった。 にっこりとしたまま廊下を歩いている。「殿下、お疲れ様です」 レーナが駆け寄ってきた。 会議には参加していないが、気になっていたのだろう。「ありがとう」 笑みを見せながら彼女に返事をする。「無事に終わりましたか?」 心配そうにしながら、会議の結果を確認してきた。「ああ。無事に終わったよ」 俺は簡単に返事をする。 すると、レーナの目には涙が浮かんでいた。

  • 王太子に転生しましたが、なぜか悪役令嬢に土下座する羽目になりました   第27話【最終会議ーー王太子の選択】

     話し合いの翌日午後、再び会議室にて王室会議が開かれた。 出席者は昨日と同じような感じ。 ただ、人数は多い気がする。 貴族達の俺を見る目は冷たくて、劣勢を始まる前から感じさせた。「これより、王室会議の続きを行う」 陛下《父上》が宣言をした。 とうとう始まったな。 重々しい空気が会議室に広がっている。「本日は、王太子レオポルドの婚約問題に関して、最終的な判断を下す事になる」 宰相の言葉で、今日の概要《がいよう》を説明していた。 これしかないだろうな。 オリエッタ嬢は扇子を口元に隠して、空気感をものともせず微笑みを維持していた。 続くようにアルマータ派の貴族達は優越感《ゆうえつかん》に浸っている。 俺が負けると思っているんだな。「最初に、よろしいでしょうか?」 オリエッタ嬢が立ち上がって、笑みのまま俺を凝視した。「何だ。申してみろ」 父上が発言を許可した。「殿下の私情は、王室の信頼を大きく損ないました。偽装の婚約を行い、ユリアナ様との再縁も過去の破棄を無視ししたもの。王太子として相応しくありません」 オリエッタ嬢は俺を口撃して、信用を落とそうとしていた。 今って、格好の状況だからな。「国益を無視した私情優先は許されん」「外交にも影響が出る」「王太子としての自覚はあるとは言えないな」 アルマータ派の貴族達が同調して、俺を批判していた。 誰もが睨《にら》み付けるような目をしている。「年少であるがペテル殿下の方が良いかもしれないな」 弟の名前まで出してきた。 俺よりも弟の方を王太子にするつもりなのか。「私でしたら、殿下を支える覚悟がございます」 オリエッタ嬢は、自薦して俺と彼女と結ばれることを誘導しようとしていた。 この王室会議の場にて、反論できないように。「国を第一にお考えください」 念を押すように、

  • 王太子に転生しましたが、なぜか悪役令嬢に土下座する羽目になりました   第26話【三人の夜】

     夜になって、俺は王宮の離れにある小さな応接室へとやってきていた。 ここは庭園に面していて、室内から花々を眺めることが出来る。夜なので暗くて庭園はあまり見えないが。「クレア嬢もユリアナ嬢もやってくるよな」 陛下《父上》が招集している。 来ない理由は無いだろうな。 緊張しながら、彼女達がやってくるのを待つことにした。「父上は来ていないな」 果たして来るのだろうか。 それとも。「殿下が先に来られていたんですか」 クレア嬢がやってきた。「ああ」 肯定の返事をすると、クレア嬢は微笑んだ。「丁度良いですね。会議後に言った講習内容は出来ましたか?」 最後の講習か。 ユリアナ嬢に想いを伝えるっていう事だったな」「まだ完全には」「そうでしょうね 俺が答えると、はにかみながら俺を見つめた。「このタイミングですから、伝えてくださいね」 やはりどこか寂しげな様子を見せ、教えていった。「これで私の講習は終わりです」 短かったかもしれないが、本当に再縁が出来そうなところまで来た。 正しかったのかな。「ありがとう」「いえ、殿下の力ですよ」 クレア嬢は軽く頷いた。「殿下にクレア嬢、お早いですね」 次に部屋に入ってきたのは、宰相のデメルジスだった。 ポットを手にしながら。カップは既に人数分、応接室の机に置いてある。「宰相閣下が立ち会うのでしょうか?」「そうだ。陛下ではあまり話せないかもしれないという、ご配慮だ」 宰相でも、重々しくなるかもしれないが。 考え方によっては、ほんの少しだけ軽いのだろうか。「心配しないでくれ、私はただ聞いているだけ。後で陛下に報告するが」「分かりました」 余計に緊張するよな。 深呼吸をしながら、ユリアナ嬢が入ってくるのを

  • 王太子に転生しましたが、なぜか悪役令嬢に土下座する羽目になりました   第25話【余波】

     この日の王室会議は終わった。 クレア嬢との仮の婚約に関しては、ほぼ破綻《はたん》することに。 こうなるのは分かっていたが。 それでも、ユリアナ嬢に対する想いは、王族や貴族達に伝えられたはずだ。「ふぅ」 大きく息を吐いて、会議室を後にした。 貴族達は俺と距離を取りながら、出て廊下を歩いていった。 アルマータ派に関しては、廊下の端でひそひそと噂話《うわさばなし》をしていた。「レオポルド殿下の王太子の資質に関しては、大きく疑問符がついたな」「私情優先にするなんて。許されないことだ」「ユリアナ嬢と婚約を破棄してから、様子がおかしくなっていたが」「破棄したのに、再縁を選ぶとはな」 俺に聞こえるか聞こえないかの音量で、話している。 こっちをチラチラと見る目は、ゴミを見るような感じで、敵意を見せていた。 俺はオリエッタ嬢を選ばない王太子だからな。 再びため息をついて、廊下を歩いていく。(間違っているかもしれない。それでも) そう思うことにしたが、手は少し震えている。 中立であろう王族や貴族に、呆れたような表情をして「終わったな」という空気を出していたからか。 王太子の座を捨ててもいいと言ったからか。 大きな事を言ってしまったな。(それでも、オリエッタ嬢を選ぶつもりはない) だが、後悔していない。 むしろこうなったら、突き通すしかないから。「殿下、お疲れ様でした」 後ろから、クレア嬢がやってきた。 笑みを出しながら、俺を見つめていた。「ああ」「良かったです」 クレア嬢は笑みのまま、思ったことを打ち明けていた。「ありがとう」「私、ちゃんと役に立てましたね」 瞳を軽く閉じて、軽く息を吐いていた。「そうだな」 彼女のおかげで、一旦は最悪の状況は逃れられたと思う。「これで終われますね

  • 王太子に転生しましたが、なぜか悪役令嬢に土下座する羽目になりました   第12話【宰相からの説教】

    「講習会《こうしゅうかい》ですが、明日でよろしいでしょうか?」 ユリアナ嬢からの返信を受け取った後、クレア嬢からはそう言われた。「そうだな」 夕方遅くになっているから、クレア嬢も疲れているはず。 また拒絶したら、俺を巻き込んで転生されそうだ。 俺自身も疲れているから、明日で良いな。うん。 そう思って、机の上の書類などを片付けていく。「殿下、デメルジス宰相閣下《さいしょうかっか》がお呼びです」 するとガスペリからそんな伝言が。 宰相から呼ばれるって、何かしたのだろ

  • 王太子に転生しましたが、なぜか悪役令嬢に土下座する羽目になりました   第9話【転生者同士】

    「続きをしよう。今すぐ」 ユリアナ嬢から書状を握りしめたまま、クレア嬢へそう伝える。 講習会をして、謝罪の作法を身に付けるために。 彼女からの書状の要求を叶えるために。 握っている書状に、力が入る。 紙が、わずかに音を立てた。(遅い) 今日、拒絶されたばかりだ。 それでも、まだ足りない気がした。「今すぐ、の前に殿下。深呼吸」「すぅ~はぁ~」 そう言われ、深く息を吸って、吐く。 心が落ち着く。「声量は?」

  • 王太子に転生しましたが、なぜか悪役令嬢に土下座する羽目になりました   第6話 殿下は再び床に頭をこすりつけた

    【ユリアナ視点】 この日、夜明け後にわたくしへ使用人のサルチャクから報告があった。  まだベッドで起きてすぐに。「殿下がお見えです」 朝早くから?  そして報告したサルチャクは、諦めているような目をして疲労を見せていた。  ただ、わたくしにとっては驚きもしなかった。(やはり来ましたのね) それだけの感情。  もう一度来るって事は予想できた。  先日の謝罪、殿下は頭を床につけて謝罪の言葉だけを伝えた。  跪いて、わたくしに許しを請《こ》うて。  明らかにおかしな状況。  しかも、何に対して謝罪をしようとしているのかを、何も言わず。  だからわたくしは、謝罪を受け入れら

  • 王太子に転生しましたが、なぜか悪役令嬢に土下座する羽目になりました   第7話【土下座は前世を知っているものだけが使う】

     足音が遠ざかっていく。  一度も、振り返る気配はなかった。「お嬢様は戻りました」 そう言われるまで、俺は土下座をしたまま。  既に謝罪をする相手は、居なくなっている。  だから頭を上げてゆっくりと立ち上がる。  額と膝には、床から伝わった冷たさが残っている。  先日よりもより、はっきりと。「出口までご案内いたします」 使用人に案内されて、屋敷の外へ。  彼の言葉は、以前より淡々としている。  屋敷の雰囲気が冷たく感じた。  丁寧だが、最初に来たときよりも距離があった。  出ると、扉は静かに閉じられる。  だが音が重かった。(終わった、のか?) 屋敷を出たタイミ

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